砥部焼の考古学/地域の中の砥部焼遺産
※掲載内容は執筆当時のものです。
地域資源として、地域づくりに活かす!
研究の概要
愛媛県砥部町とその周辺は、砥部焼と呼ばれる陶磁器の産地です。砥部焼磁器は、江戸時代後期の1777年の創業から現在まで約250年の歴史を有しています。砥部町は現在も砥部焼を主要な地域振興の産業としています。であれば約250年の歴史とその文化もまた地域づくりの地域資源に成り得るものなのです。こうした観点から、砥部町教育委員会と協働しながら、砥部焼の遺跡を調査し、それらを文化財化?歴史遺産化することで地域づくりに活かす活動を行っています。
砥部町とその周辺において、考古学的な方法を用いて悉皆的に登り窯等の窯跡を踏査し、同時に資料館等所蔵の陶磁器資料も調査しています。文献資料も比較参照しながら考古学的な分析を進めることで、新たな歴史事実を解明しています。これらのことは地域と協働することで、地域資源としての新たな価値を引き出せるようにもしています。
研究の特色
遺跡の研究では、その場所に起こった歴史的事実を明らかにすることができます。それは往々にして、これまで知られていなかったことやこれまでの捉え方を覆すことが多く、砥部焼の考古学的解明でも、従来の砥部焼の説や捉え方を変えつつあります。
窯跡の調査は、これまで知られていなかった砥部焼の焼成窯の構造やその特徴を明らかにすることに繋がっています。有田焼や波佐見焼などの肥前系と呼ばれる焼成窯と、関西以東の京焼や瀬戸?美濃焼等の焼成窯の両方が導入されていることが分かりつつあります。また、生産地である砥部だけでなく、消費地の状況を研究することで、砥部焼が愛媛とその周辺という局地的なものだったわけはなく、各時代の情勢に応じた販売戦略と販路拡大も行ってきた窯業であったことも明らかになりつつあります。とくに、台湾での比較調査は、近代における海外への販路拡大の状況が近代砥部焼のイメージを大きく変えます。
この研究は、考古学、文献史学、民俗学、教育学、三次元測量、分析化学など異分野との共同、地域の窯元や窯業関係者、日本の他大学や海外では台湾の大学?研究機関との協同で進めています。
研究の魅力
砥部焼遺産の考古学?歴史学研究は砥部の地域社会や地域づくりに直結したものであることが大きな魅力です。歴史的事実とその価値を明らかにする過程で、地域の様々な分野の人々と協働することが、多様な活用にも繋がっています。たとえば愛媛県立松山南高等学校砥部分校とでは、砥部焼遺産の巡検から始まり、今では地域の探究型学習のプログラムにも組み入れられています。また、砥部町と台湾の新北市鶯歌区との国際交流の一環として、台湾主催の国際窯業フォーラムに参画したり、窯跡等の歴史遺産を活かした交流活動の準備を進めたりもしています。


今後の展望
文化財は歴史的価値があり保存するものとして、多くの人々は自らとは直接的には関係ない、もしくはアンタッチャブルな存在として感じています。しかし、実は違っていて地域社会の現在や未来にとって、人々に身近で活かせる、価値があるものであり、だからこそ、多くの分野の仕事?なりわいにも関わり合える地域資源なのです。こうした見方?考え方を広めることで、もともと豊かな地域文化として実感されながら、砥部焼遺産を活かした地域づくりに進んでいくことを目指したいです。
この研究を志望する方へのメッセージ
社会共創学部地域資源マネジメント学科での「歴史遺産論」の中で学ぶことができます。地域社会がより良く営まれるためには、歴史遺産を地域資源として活用し、かつ歴史遺産はそのために未来に引き継がれることが求められまする。このことは地域づくりにとって重要な観点?方法であることは自明で、そのための人材もまた社会が必要としています。
